Next-door

男はドアが好きだった。

ドアノブに手をかけた時のあの高揚感が堪らない。

カチャッという小気味良い音。

あれほど胸踊る瞬間はない。

 

男は家にいくつものドアをつけた。

毎日違うドアから家を出、毎日違うドアから家に入った。

男はとても満足だった。気分によって色々なドアを楽しめた。

たくさんのドアに毎日カギをかけることすらも

男には苦ではなかった。

 

そのうち、男は家のドアに飽きてしまった。

そこで、次は、世界の様々なドアを開けようと旅に出た。

あるときは左利きのドアだった。

またあるときはとても偉い殿様の厠のドアだった。

たくさんのドアに出会った。

男は幸せだった。

 

ある日、男はひとつのドアに出会った。

 

早速開けようとしたのだが、どうしても開かない。

押しても、引いても、たたいてもダメだ。

男が今まで体験したドアについての知識をフルに活用しても

ドアは開かなかった。

どんな方法を使っても開かない。

どうしても開かない。

 

男は必死で考えた。

 

そして、ふと気付いた。

 

自分はドアが好きだと思っていた。

ドアを開けるのが好きだと思っていた。

だがそれは違った。

 

自分は、ドアの向こう側の世界を見るのが好きだったのだ。

窓や襖と違って、ドアの向こうには違う世界が広がっている。

その世界を見るのが自分は好きだったのだ!!

そう気付いた途端、男は、このドアの向こう側がとても知りたくなった。

どんな世界が広がっているのだろう。

どんな景色が見えるのだろう。

向こう側が見たい。

男は生涯で二度とないというくらい切実に願った。

 

突然後ろから声をかけられて、男は至極面食らった。

男の子が立っていた。

「そのドアは僕のだよ。」

「これは君のドアなのかい?」

「そうだよ。僕が描いたんだ。」

男の子はにこにこと笑いながら嬉しそうに言った。

何ということだ!

私は絵のドアを開けようとしていたのか!!

男はひどく落胆した。

 

男の子はちょっと困ったような顔をして男を見た。

 「へんなの。」

そう言ってそのドアを開け、にっこりと男に笑いかけた後―――ドアを閉めた。

 

 

 

後には茫然と立ち尽くす男が残された。

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