静かな夜。

ぽっかりと空に浮かんだ満月が辺りをやさしい光で満たしている。

  昼間のゴロツキは借金取りなんだそうで。この宿屋を建てる時にラーナの父親がお金を借りたのだが、その後すぐに父親が

事故で亡くなり借金の返済が思うようにいかないのだ。 ラーナとその母親から事情を聞いたラオとキキはおせっかいにもちょ

っとした人助けをしようと思いついた。どうせ目的のない二人旅の途中だ。ちょっとくらい寄り道してもかまわないだろう。

「この砂漠で水は貴重なものですよね?」

「はい。」

何、当たり前のこと聞いてるんだ。

そう言った顔で母親がうなずく。ラーナと違ってラオとキキの二人組をまだ完全に信用したわけじゃないのだ。彼女にとってキ

キとラオはただの泊まり客。そいつらがいきなり夜中に二人を呼びだしたのだから警戒するのも当然だろう。

「始めましょうか、キキ。」

「あいよ。」

すぅっとキキが大きく深呼吸した。ざわわぁっとあたりに風があつまる。

「ラオ・・・準備はいい?」

「OKです。」

ただそれを見守るしかない二人。キキとラオは着々と何かを進めているというのに。

「この地に眠りし聖獣よ。 

   我が名はキキ。その名に従いて疾く姿を見せよ!!」

その声に応じるように微妙に揺れた大地から青白い光芒が漏れ出て、夜空を白く射抜いた。

目のくらむような光の矢が暗い空で踊り、次第に生き物の姿を取り始める。

 「・・・だいぶ、本来の姿を失ってますね。」

やがてあらわれた生物に対しラオがそう感想をもらす。その生物は、一言でいうなら醜悪な姿をしていた。一見環形動物に見

えるが本当のことは誰にもわからない。

「・・・・砂ミミズ。」

ぼそりっと、言い得て妙な形容詞をキキがつぶやいた。

  しぎゃーと砂ミミズが牙(?)をむく。

「じゃ、交代ですね。」

ぱんと手をタッチさせてラオとキキが位置を変わる。一体何をするつもりなのか。

ひょいとラオが宙に飛び上がり、砂ミミズの頭にあたる場所に手をふれた。

 蜃気楼が夜に消え失せるかのように。

 幻から幻へ。

砂ミミズはあっというまに姿を変えた。透き通る蒼でできた四つ足の獣に。それはどこか豹などの猫科の獰猛な動物を思わせ

る。

「きっと砂漠化した土地に合わせて姿を変えてきたんでしょう。」

「そのせいで力が弱って余計に雨は降らなくなるわ、砂漠は広がるわの悪循環してたわけ ね。」

何でもない話のように会話するキキとラオ。ラーナと母親はただただ立ちつくすだけ。

「さぁて。もともと水脈の眠ってた土地だから引き出しやすいとは思うんだけど。」

キキがばっと手をかざす。そして何事かを呟いたかと思うと、腰にまとめてある三節根を宙にいた四つ足の獣の影の辺りに打

ち込む。そりゃあもう力一杯。鈍い音をててそれが地面にめりこむ。・・・・沈黙。

「・・・・・あ・・」

静けさに耐えきれなくなってラーナが口を開こうとした瞬間、ぱきぱきっという音が確かに耳についた。乾いた地面に刺さった

三節根の根本から黒っぽいしみが広がっていく。

 まさか。

ラーナの目が驚愕に見開かれる。

―――――そのまさかだった。

ひからびて割れた地面のあちこちから水が噴き出してきたのだ。最初はちょろちょろとした流れだったそれらは。

「せいッ!!」

キキがかけ声一発三節根を引き抜いた瞬間、ものすごい勢いで吹き出した。

どばびばでばしゅごごごごごッ

それこそ宿屋を吹き飛ばすような勢いで。

  見下ろし、見届け、全てを許すような満月に照らされて。

キキがやわらかく微笑んでラオを見やる。ラオもやさしくそのアメジストの瞳を笑みの形にすがめる。

「あなた方はやはり魔法使いだったんですね!?」

ラーナの興奮しきった言葉に、二人は苦笑を浮かべた。少し逡巡した後、ラオは明るく笑って言い切った。

「僕たちはただの正義のミカタですよ。・・・おせっかいな。」

   幻想的な夜の中、聖獣は水の架け橋の上を優雅に駆け抜けていく。

 

 翌日の朝。

突如、泉がわき出た奇跡の宿屋として見物客が大勢押し掛けてきた宿屋の裏手で、ひっそりとした別れが交わされていた。 

「じゃ、ばいばいラーナ。御飯美味しかったよん。」

ひらひらと、助手席からキキが手をふる。後部座席にのっかているのは心ばかりのお礼、ラーナの特製お弁当だ。

「お騒がせしてすみませんでした。」

ラオが笑いながら頭を下げる。これからラーナとその母親は、宿屋を続けていきながら、水を売って暮らすそうだ。きっとこの砂

漠であの水源は役に立つことだろう。

 そして再び、キキとラオの旅は始まる。もちろん目的なんぞはない。ただひたすらにとりあえずのゴールを目指す。二人とも持

論は「人生にゴールなんてものはない」というものなのであまりそれもあてにはならないが。だから何回だって二人のジープは

走り出す。

―――風のふくまま、きのむくままに。

                           END

                                                              by   山のこ。

                          

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