野蛮で野蛮な正義のミカタ。
 

 

 ここではないどこか。

どこでもない世界の片隅で。

  ある冒険者は魔王に囚われた姫君を助けるクエストに。

 またある冒険者は遙かな大陸を目指し、海を越えていった。

そして今、新たな物語が生まれる。

―――彼らの目的は、未だ・・・・ない。

 

 砂漠に囲まれたこの街は、中央政府にすら忘れられた小さな街だ。外から人が訪ねてくることはほとんどないに等しい。そん

な街に今、一台のジープが近づいてきていた。この鉄製の乗り物は、普通に作られているものではない。古代文明の生き残り

だ。ごくたまにどこかの遺跡の中から掘り出されたりする。燃える水を燃料に馬やらくだよりも早く走ることができるのだ。

「ったく、暑いったら暑いわぁ。どうにか涼しくできないもんなんだか。」

ジープの後ろの座席に座った小柄な人物がぽそりと口ずさむ。

「おや?

 弱冷気の呪文をかけていないんですか?」

運転していた人物がくるりと振り返る。あたりは砂漠しかないので、多少よそ見しても何かにぶつかったりはしないのだ。

「してるんだけどぉ。見た目が暑いってコレ。」

周りの砂は太陽に痛めつけられ、なけなしの水分を水蒸気として吐き出す。そのため、視界は限りなく悪い。ゆらめく蜃気楼に

吹き荒れる砂嵐。

  頭からすっぽり被るようにしている砂よけの布があるからいいものの、それがなければ五分もたたないうちに砂だるまだろう。

「この布自体も暑くるしくて鬱陶しいし・・・。私、砂漠ってあんま好きくない。」

「でも、夜の砂漠は好きでしょう。」

「うん・・・・綺麗やからね。夜の砂漠はまぁ好き。昼間ほど砂嵐もひどくないから。

 でも、しばらく砂漠は見たくないな。」

げっそりとした声。もう三日三晩砂漠の中にいるのだ。砂漠に飽きたからといって誰がこの人物を責められよう。

「服の中に砂が入るとざらざらして気持ち悪いし・・・だからといってお風呂に入るわけ にもいかないし。あ――・・・浴槽に水を

たっぷりためて水風呂したい―――。」

うぐうぐとうめく。

「あ、見えてきました。砂漠都市セキリョウです。昔は緑も多く、高台にあったらしいん ですが、大規模な地殻変動で砂漠へと

変わってしまったそうですよ。」

しばらくすると、二人ののったジープは街の入り口であるゲートをくぐった。周りの物珍しげな視線など全く気にせず、きちんと

石畳に整備された道をジープは進んでいく。

と、ジープの行き先を遮るようにして人混みがわいて出た。遠目なのであまりよく見えないが、どうやらモメているらしい。

「なぁんか、楽しそうな事してるけど?」

「混ざってきたらどうですか? もめ事は好きでしょう。」

「うん。」

「あまりコトを大きくしないでくださいよ?」

「わぁったわぁった。」

絶対わかっていないであろうわくわくした声音で応えて、小さい方の人物が人が走る速さよりも遅いぐらいのスピードで徐行し

ていたジープから飛び降りた。そのまま人混みの中にもぐりこみ、騒ぎの中心に顔をを出す。どうやら女の子がゴロツキにから

まれているらしい。どちらが悪いのかは明白だ。ばっと砂避けの布を脱ぎ捨てる。風になびく、栗色の綺麗な髪。日に焼けるこ

とを知らないかのような白い肌。

「じゃーんッ。正義の味方登場―――!!」

小柄でありながらときちんとバランスのとれた見事なプロポーション。 

少女にからんでいた男が突然現れた美少女に目を丸くする。

「あーあ。果物落としちゃって。もったいないよ?」

ひょいっと足にひっかけて宙に投げあげた果物を手に取り、彼女はにっこり微笑んでみせる。短いジーンズのすそからすんなり

のびた足が描く脚線が美しい。  

  かしゅっと一口、それを頬張って彼女は満足げにうなずいた。

「さすがに三日三晩、野菜果物食べてなかっただけあって美味しいわぁ。うんうん、食べ物は大切にしなきゃ。」

そのままからまれていた少女を連れて、歩いていこうとする。

「って、待て待てッ。俺らはその嬢ちゃんに用があるんだよッ。」

突然現れた彼女にどう対処していいのかわからないゴロツキの声にはありありと動揺の色が刻まれていて。

「あんたはあいつらに何か用あんの?」

ふるふるっと首を横に振る少女。

「OK。じゃ行こっか。」

ゴロツキは完全無視である。こんなか弱そうな少女一人に逃げられてはメンツがつぶれてしまうのだろう。後ろから追いすがろ

うとする。

「しつこい男は嫌われるよ?」

ひゅんっと、彼女の手首が小さくひらめいた。その瞬間、何か固いモノでしこたま顔を強打され、うずくまるゴロツキたち。彼女

がいつも肌身離さず携帯している三節根で顔面を打ち据えられたのだ。

「さ。行こ行こ。」

少女の方は何かと気になるようで、後ろを振り返るが彼女は決して振り返りはしない。自分の与えた一撃のダメージを心得て

いるからだ。

「キキ、平気ですか?」

連れの、運転していた方の人物がジープの中から声をかける。

「ラオ、怪しいよその布。」

「そうですか?」

ラオ、と呼ばれた彼の方もかぶり布を取り去る。くすんだ金髪が風に広がった。紫の瞳が優しく二人をうつす。たおやかな美貌

なのだが、決して女性的というわけではない。

「あ。あのさ、ここらへんで美味しい宿屋ない? 

 私ら、旅の冒険者。安いとなお嬉しいんだけど。」

彼女・・・いやキキが少女に向き直って、にっこりとたずねる。そして、自分の言った安いという言葉で思い出したのか、腰に下

げていた黒い巾着の中から金貨を一枚とりだすと、少女へと放った。

「さっきの果物の代金。ここらじゃ、果物は貴重なんじゃない?」

それにしても、果物一つに金貨一枚は高すぎる。

「あなた、一人だけそんなの食べたんですか?」

「ラオも食べたいならやるけど?」

「ああ、いただきます。」

半分ほど囓ったあとのある果物をキキがラオへと手渡すと、ラオもなんの躊躇いも見せずに囓り始める。

「・・・お二人はコイビト同士なんですか?」

キキ、びっくり。目がまん丸くなる。

「まさか。こんな危ないのとコイビトなんてやってられませんって。」

あははは、と笑いながらラオが言葉をついだ。キキはとてもじゃないが、返事できる状態じゃない。

「だって、お二人ともとても親しげだし・・・。」

「そりゃ二十四時間一緒にいれば仲良くもなりますよ。ねぇ、キキ。」

「まぁね。・・・危ないって何よ、危ないって。」

小声でぼやいて、キキがラオの脇腹を肘でつつく。どっかと助手席に座って形のいい足を惜しげもなくフロントにのっけて組ん

でいる。

「中途半端にモノ入れたせいで、余計にお腹空いた。ラオ、早いトコ宿とって食べにいこ?」

「はいはい。わかってますよ。

 乗って下さい。お家まで送りますよ。」

ぐっと上半身を後ろへと傾けて、後部座席のドアを少女のために開けてやる。さきほどの奴らがまた彼女が一人きりになった

のを見計らってからんでくるかもしれないからだ。

宿屋と食事どころを探すのはそれからになる。・・・が。少女の嬉しい一言で、キキは早めに食事にありつけることになった。

「あの、私の家が宿屋をしてるんですけど・・・・・。

 お安くしておきますよ?」

 

わやわやと、騒がしすぎない程度ににぎわった店内でのこと。

「美味し―――ッ!!」

んんーっと少々不作法にフォークをくわえたままキキは歓声をあげた。

「ラオぉぉぉ。久しぶりのまともな御飯だよぉおうおうおうおう。」

キキは大袈裟にえぐえぐと泣き真似をしてみせる。

「それは僕のセリフですよ。キキったら僕の分まで食べようとするんだから。ほら、また。」ラオの魚を使ったB定食にキキのフォ

ークがのびる。それを自分のナイフでガードしてラオは笑みを浮かべて少女を見上げた。この宿屋はこの少女と、その母親の

二人で切り盛りしているらしい。

「ほんと、美味しいですよ。コックの方にお礼を言いたいぐらいです。」

「・・・・コック、私なんです。」

恥ずかしそうに頬に朱を浮かべながら、少女が言った。

「へーー。すごいね、その年でこんなに料理できるなんて。私なんか全然できないからす っごい尊敬する。名前、なんて

の?」

「ラーナです。お二人はどこからいらしたんですか?」

「砂漠のずっと向こう。」

自分のA定食―――A定食は子羊のソテーである―――をぱくつきながらキキが答える。その瞬間、ラーナが驚いたように目

を丸くした。

「砂漠の向こうって事は・・・!!

 もしかして魔法とか使えるんですか!?」

―――魔法。砂漠の向こう、遙か遠い異国に伝わるという奇術。

そこもまたここと同じく中央政府の目の届かない異境の地。そこに住む人々は思いも寄らぬ魔法を自在に使うと言われている

のだ。

「・・・魔法ねェ。使えたらすごいでしょうね。」

のほほん、とラオがキキが何か言うより早く答えた。しょうがないので、キキはフォークの先にさした子羊のヒレ肉にかぶりつ

く。

「やっぱり、魔法使いなんているわけないのか。残念だな、お二人が魔法使いだったら助けてもらえたのに。」

「助けるって?」

魚の炒め物を口に運ぶ手を休めてラオが尋ねた。すきありッとか言ってキキがフォークをのばすが、視線はラーナの顔に固定

したままラオが皿をすっと移動させたため、そのフォークはがすぅっと音を立ててテーブルに刺さる。

「修行が足りませんね。・・・で、なんですって?

 何から助けて欲しいんですか?」

「さっきの人たちからです。あの人たち、ずっとここを売れってうるさいんです。

 でも、ここは父さんの形見みたいなものだし・・・・。」

しゅん・・・とラーナの顔が暗く翳る。

「あ、すみません。関係ないお客さんに変なお話しちゃって。どうかゆっくりくつろいで下さいッ!」

ラーナはへこりっと一礼するとぱたぱたと足音を立てて厨房へと戻っていった。

「・・・・気づきましたか、キキ?」

「そりゃね。美味しい御飯のお礼をするなら今夜が最適。満月だから、ね。」

キキとラオの二人は意味ありげな会話を交わして視線を地面に下ろした。そこにあるのは何の変哲もないただの石造りの床。

だけども。その下に何が隠されているのか。

  ラーナは知らない。

                         

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